書評
『トロンプルイユの星』(集英社)
登場人物と作者の距離感 絶妙
第34回すばる文学賞受賞作。新人作家の登場はきらびやかに喧伝(けんでん)されるものだが、米田夕歌里さんの作風はけっして派手ではない。だが、このデビュー作は、きっちり構成されている。イベント事務所に勤める主人公、藤田サトミ。大きな成功はないが充実した仕事の感触を覚える毎日。ある日、同僚の久坂から、交差点を観察しに行こうと誘われる。
それ以来、サトミの身辺で不思議な出来事が起こる。いつも会社の机の引き出しに入れていたはずのハッカ飴(あめ)がなくなる。進行中のイベントをめぐって自分と周りの人の間に記憶の食い違いが生まれる。モノや人が姿を消すようになる……。
新人作家を「新たな才能」と形容して送り出すのは簡単だ。だが押した背中が自信なさげだったり、期待に応えようとして力が入りすぎていたりする。米田さんがこの作品の後、どんな作家になるのか、まったくわからないが、ひとつだけ言えることがある。それは、登場人物と作者の間にある距離感が絶妙だということだ。この距離が破綻なく守られている限り、米田さんは端正な小説を書き続けていくだろうと思う。
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