書評
『ピアノ・ソロ』(集英社)
緻密な構築で独特の世界
エシュノーズの小説を心待ちにしている読者は、決して数多いとは思えないけれど、緻密(ちみつ)に構築された彼の小説世界は、とても魅力的だ。フランスでは三年前に出版されていた本書も、彼独特の世界を存分に堪能させてくれる。主人公のマックスはピアニスト。だが、コンサートの前は極度の精神不安定になり、アルコールに依存し、演奏中の彼とはまったく違う醜態ばかり演じている。
そんな彼がコンサートの後、暴漢に襲われ、死んでしまう。三部構成の第二部は、死後の世界の記述。そして第三部は、マックスの持っていたはずの社会的属性(名前、住所、職業など)をすべて奪われたところから、再スタートしている。
特に第一部の、演奏は抜群だが、ある意味でだらしないピアニスト、マックスが印象的。訳者がエシュノーズ本人に確認したらしいが、この人物造型の背後には、あの粋なピアニスト、サンソン・フランソワもいるらしい。なるほど。
とにかく、細部が凝っている素晴らしい小説。そして、訳者のしなやかな日本語もエシュノーズの文体に見事にマッチしている。名訳は谷昌親氏による。
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