書評
『デス博士の島その他の物語』(国書刊行会)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
だから、あなたも買いなさい、読みなさい。買って読んでセンスアップなさいまし。H・G・ウェルズの『モロー博士の島』にオマージュを捧げた表題作。頭はいいけど粗暴な青年と若い娘がいる、話しかけてくる島に流された少年の話「アイランド博士の死」。一冊の本としての人間の歓びと不安と悪夢を描いた「死の島の博士」。意識改変ドラッグの製造と濫用によって生まれた遺伝子損傷人間が俳徊する、文明崩壊後のアメリカにやってきたイランの御曹司が経験する愛の迷走をトリッキーな語りで綴る「アメリカの七夜」。超管理社会となった近未来のアメリカを放浪する盲目の孤児を主人公に、キリストの奇蹟譚を『オズの魔法使い』に共鳴させながら語り直した「眼閃の奇蹟」。どれもすっばらしく面白くて刺激的、かつ小説読みのプライドをつつく手強い作品になってるんであります。
個人的にツボなのは読書の歓び、その原初の気持ちをリリカルに謳いあげた表題作です。美しいけれど母性愛に欠けた母親と海辺の家に暮らす孤独な少年。ある日、夢中になって読んでいる本の登場人物が現れて――。
ねっ、経験あるでしょ? 本を読んでる最中の、あの心臓がばくばくいうほどの昂揚感。残りのページがどんどん少なくなるのが心細くて〈今夜はここでやめよう。全部読んだら損しちゃう、(中略)つづきは明日読もう、がまんするんだ〉と本を閉じる時の淋しさ半分楽しみ半分の気持ち。そんな子供の頃に覚えた読書の興奮と、小説の中に入りこんでしまいたいという強烈な願望を甦らせてくれるんです。つまり、ウルフは小説が好きでたまらないあなたの友になってくれる作家だということ。だから大事にしてあげて!
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
刺激的なSFでセンスアップなさいまし
売れゆき好調ですって、ジーン・ウルフの中短篇集『デス博士の島その他の物語』がっ! 九〇年代、あのSF冬の時代に誰がこんな日がくると思ったでありましょうか。幸せすぎて愛が怖い(©野口五郎)今日この頃なんですの。それもこれも、昨年出たウルフの傑作長篇『ケルベロス第五の首』が、新しい読者を開拓したおかげだすわね。でもって、頭のいいSFって超かっこいいー、へたなポストモダン小説よりよほど世界文学の前衛じゃんと感銘うけまくりまくった、そんなセンスのいい読者を育てつつある、国書刊行会の「未来の文学」シリーズのおかげなんだすわね。だすわよ。だから、あなたも買いなさい、読みなさい。買って読んでセンスアップなさいまし。H・G・ウェルズの『モロー博士の島』にオマージュを捧げた表題作。頭はいいけど粗暴な青年と若い娘がいる、話しかけてくる島に流された少年の話「アイランド博士の死」。一冊の本としての人間の歓びと不安と悪夢を描いた「死の島の博士」。意識改変ドラッグの製造と濫用によって生まれた遺伝子損傷人間が俳徊する、文明崩壊後のアメリカにやってきたイランの御曹司が経験する愛の迷走をトリッキーな語りで綴る「アメリカの七夜」。超管理社会となった近未来のアメリカを放浪する盲目の孤児を主人公に、キリストの奇蹟譚を『オズの魔法使い』に共鳴させながら語り直した「眼閃の奇蹟」。どれもすっばらしく面白くて刺激的、かつ小説読みのプライドをつつく手強い作品になってるんであります。
個人的にツボなのは読書の歓び、その原初の気持ちをリリカルに謳いあげた表題作です。美しいけれど母性愛に欠けた母親と海辺の家に暮らす孤独な少年。ある日、夢中になって読んでいる本の登場人物が現れて――。
きみは枕の上に本をふせてはねおきる。自分の体を抱きしめながら、はだしで部屋のなかをぴょんぴょんとびまわる。わあ、おもしろい! すごいや!
ねっ、経験あるでしょ? 本を読んでる最中の、あの心臓がばくばくいうほどの昂揚感。残りのページがどんどん少なくなるのが心細くて〈今夜はここでやめよう。全部読んだら損しちゃう、(中略)つづきは明日読もう、がまんするんだ〉と本を閉じる時の淋しさ半分楽しみ半分の気持ち。そんな子供の頃に覚えた読書の興奮と、小説の中に入りこんでしまいたいという強烈な願望を甦らせてくれるんです。つまり、ウルフは小説が好きでたまらないあなたの友になってくれる作家だということ。だから大事にしてあげて!
【この書評が収録されている書籍】
ALL REVIEWSをフォローする






































