書評
『リンさんの小さな子』(みすず書房)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
泣くのが大っ嫌いなんですの。だから、そうなりそうな映画や小説を極力避けてるんですの。鬼門はケモノね。ケモノは一切ダメ。あの映画『ベイブ』にすら唇をわななかせて泣いてしまった壊れかけのレディオ(©徳永英明)、それがオデ。でも、人間なら平気。人間がどれほどひどい目に遭おうが、知ったこっちゃありません。ナチスの強制収容所におけるヒューマン映画『ライフ・イズ・ビューティフル』でも、あんましやかましいから観ながら「ベニーニ、はよ死ねっ」とか毒づいたほど。そんな鬼ババァですの。
だから大丈夫だと思ったんですよ、『リンさんの小さな子』も。「ジジイと赤ん坊? それが何か?」、なめてかかってたわけですよ。ところが――。
なんなんでございましょう、この読後感はっ。物語の最終章、「よかったー」と安心した途端「そ、そんな」と絶句するのは必至。で、その後「えっ!?」という鋭い驚きがもたらされ、最後の最後、幸福感に包まれる、そんな終わり方になってるんですの、この小説は。「そ、そんな」のとこで無念の涙が流れ、最後の最後に安堵の涙を流すという、落涙二段構えの相。いや、皆さんもお試しになるとよろしいよ、この不思議な読後感は。
リンさんは戦争で村の仲間と息子夫婦を失った老人。生まれたばかりの孫娘サン・ディウと、難民としてフランスに渡ります。同胞が収容されている宿舎で厄介者扱いされてしまうリンさんなのですが、ある日散歩の途中に坐ったベンチで、一人のフランス人、バルクさんの知己を得ます。リンさんに死んでしまった妻の思い出を切々と語るバルクさん、言葉がわからないために互いの名を、「タオ・ライ(こんにちは)」「ボンジュール(こんにちは)」と勘違いしながらも、二人はじょじょに気持ちを通い合わせていきます。
若い時に死に別れた妻のこと、幸せだった村での生活。片時もそばから離さない幼い孫娘をあやしながら、過去のことばかり思い返しているリンさん。その孤独がページのそこここから浮かび上がってくるだけに、読者にとってバルクさんのリンさんに寄せる好意と優しさ、二人が仲良くなっていく様子は救いです。それだけに……。
さあ、不思議な読後感を体感して下さいまし。落涙二段構えの相で斬られちゃって下さいまし。ベニーニは逝ってよし。でも、リンさんは逝っちゃイヤ!
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
鬼の目にも涙。落涙二段構えのする不思議な読後感をお試しあれ
しまった、不覚をとってしまった。ツラの皮の厚いこと細木数子のごとしである、わたくしともあろう者が、まさか泣いてしまうとは……南無三っ!泣くのが大っ嫌いなんですの。だから、そうなりそうな映画や小説を極力避けてるんですの。鬼門はケモノね。ケモノは一切ダメ。あの映画『ベイブ』にすら唇をわななかせて泣いてしまった壊れかけのレディオ(©徳永英明)、それがオデ。でも、人間なら平気。人間がどれほどひどい目に遭おうが、知ったこっちゃありません。ナチスの強制収容所におけるヒューマン映画『ライフ・イズ・ビューティフル』でも、あんましやかましいから観ながら「ベニーニ、はよ死ねっ」とか毒づいたほど。そんな鬼ババァですの。
だから大丈夫だと思ったんですよ、『リンさんの小さな子』も。「ジジイと赤ん坊? それが何か?」、なめてかかってたわけですよ。ところが――。
なんなんでございましょう、この読後感はっ。物語の最終章、「よかったー」と安心した途端「そ、そんな」と絶句するのは必至。で、その後「えっ!?」という鋭い驚きがもたらされ、最後の最後、幸福感に包まれる、そんな終わり方になってるんですの、この小説は。「そ、そんな」のとこで無念の涙が流れ、最後の最後に安堵の涙を流すという、落涙二段構えの相。いや、皆さんもお試しになるとよろしいよ、この不思議な読後感は。
リンさんは戦争で村の仲間と息子夫婦を失った老人。生まれたばかりの孫娘サン・ディウと、難民としてフランスに渡ります。同胞が収容されている宿舎で厄介者扱いされてしまうリンさんなのですが、ある日散歩の途中に坐ったベンチで、一人のフランス人、バルクさんの知己を得ます。リンさんに死んでしまった妻の思い出を切々と語るバルクさん、言葉がわからないために互いの名を、「タオ・ライ(こんにちは)」「ボンジュール(こんにちは)」と勘違いしながらも、二人はじょじょに気持ちを通い合わせていきます。
若い時に死に別れた妻のこと、幸せだった村での生活。片時もそばから離さない幼い孫娘をあやしながら、過去のことばかり思い返しているリンさん。その孤独がページのそこここから浮かび上がってくるだけに、読者にとってバルクさんのリンさんに寄せる好意と優しさ、二人が仲良くなっていく様子は救いです。それだけに……。
さあ、不思議な読後感を体感して下さいまし。落涙二段構えの相で斬られちゃって下さいまし。ベニーニは逝ってよし。でも、リンさんは逝っちゃイヤ!
【この書評が収録されている書籍】
ALL REVIEWSをフォローする






































