書評
『錏娥哢奼(あがるた)』(集英社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
膨大な史料を駆使しつつ、妄想という大ナタをふるって歴史にひびを入れ、その中から奇想という赤子をとりあげる。江戸時代の言葉と現代の言葉を掛け合わせ、十七世紀と今を重ね合わせ、この作品自体をブリーディングの賜物と化させる。破天荒なのは、しかし物語だけにとどまりません。作者はしばしば物語に介入し、時代背景を解説したり、自分にツッコミを入れたり、果てはこの物語の読み方を指南したり、BGMまで指示するのです。「フリーダム!」、天にこぶしを突き上げて呵々大笑したくなるような、反則を承知の上での語りの自由人ぶりが素晴らしいっ。時代小説の保守本流ファンを憤死させかねないこの自在性こそが本作の最大の美点なんではありますまいか。
あ、でも、もしかしたら物語の初っぱな、八劔の長である齢二百歳ともいわれる蛆神が現れ、錏娥哢奼を生んだ女から娩出された胞衣(胎盤)を喰らいつくす、きわどいシーンで引いてしまう人がいるかも。でも、どうか読むのをやめないで! 蛆神、怖くないんです。「ふふふう、ふふう」「蛆神困っちゃう」「どうしたじゃろじゃろ」といった蛆神語の愛らしさといったら(絶句)。そんなキモ可愛いキャラを筆頭に、錏娥哢奼、忠犬・巌、軽佻浮薄な美少年・時貞、実は×××だった家康などなど、登場人物の造型も立ちまくり。
キャラクター小説としても抜きんでた魅力を備えたこの物語は、しかしエンターテイニングばかりでは終わりません。近親相姦や体外受精といったブリーディング、天皇制の意味、「悪は自然、善は不自然」という理を背景に人間が考え出す政治のからくりといった重いテーマが、読んでひたすら面白い物語の底に流れているんです。山田風太郎の忍法帖シリーズに萬月史観ともいうべき独自の奇想を加味した、これぞ二十一世紀の忍者小説。幕末、時貞が××××になって大活躍するスピンオフ作品の誕生を熱望します。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
愉快!痛快!奇想天外!これぞ二十一世紀の忍者小説
愉快! 痛快! ご無体! 狂態! 花村萬月の『錏娥哢奼(あがるた)』は「時代小説」という成層圏を突き抜けて宇宙の無碍に遊ぶ、超不埒な小説です。主人公は、血の掛け合わせで人材を生み出してきた忍びの一族「八劔」に生まれた少女。ブリーディングを重ねた末、抜きんでた美貌と能力を備えて誕生した少女は錏娥哢奼と名づけられ、成長するにつれその美貌と色香、異能に磨きをかけていきます。時は徳川家三代将軍・家光の時代。天草四郎時貞と出会い、島原の乱に加わり、徳川家康の秘められた正体に肉迫する過程で、自らのアイデンティティを発見してしまった錏娥哢奼は――。膨大な史料を駆使しつつ、妄想という大ナタをふるって歴史にひびを入れ、その中から奇想という赤子をとりあげる。江戸時代の言葉と現代の言葉を掛け合わせ、十七世紀と今を重ね合わせ、この作品自体をブリーディングの賜物と化させる。破天荒なのは、しかし物語だけにとどまりません。作者はしばしば物語に介入し、時代背景を解説したり、自分にツッコミを入れたり、果てはこの物語の読み方を指南したり、BGMまで指示するのです。「フリーダム!」、天にこぶしを突き上げて呵々大笑したくなるような、反則を承知の上での語りの自由人ぶりが素晴らしいっ。時代小説の保守本流ファンを憤死させかねないこの自在性こそが本作の最大の美点なんではありますまいか。
あ、でも、もしかしたら物語の初っぱな、八劔の長である齢二百歳ともいわれる蛆神が現れ、錏娥哢奼を生んだ女から娩出された胞衣(胎盤)を喰らいつくす、きわどいシーンで引いてしまう人がいるかも。でも、どうか読むのをやめないで! 蛆神、怖くないんです。「ふふふう、ふふう」「蛆神困っちゃう」「どうしたじゃろじゃろ」といった蛆神語の愛らしさといったら(絶句)。そんなキモ可愛いキャラを筆頭に、錏娥哢奼、忠犬・巌、軽佻浮薄な美少年・時貞、実は×××だった家康などなど、登場人物の造型も立ちまくり。
キャラクター小説としても抜きんでた魅力を備えたこの物語は、しかしエンターテイニングばかりでは終わりません。近親相姦や体外受精といったブリーディング、天皇制の意味、「悪は自然、善は不自然」という理を背景に人間が考え出す政治のからくりといった重いテーマが、読んでひたすら面白い物語の底に流れているんです。山田風太郎の忍法帖シリーズに萬月史観ともいうべき独自の奇想を加味した、これぞ二十一世紀の忍者小説。幕末、時貞が××××になって大活躍するスピンオフ作品の誕生を熱望します。
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