書評
『刀』(新潮社)
〈私の中には幼い頃より一本の刀が棲み着いており、この頃は毎夜のごとく夢に出てきて、書け、と私を脅す。書かなければお前を斬る、と刀は宣(のたま)うのである〉ときたもんだ。書かないでほしいよ。でもって、斬ってもらいなさいよ、あんたん中の刀とやらにさ。つーか、オレが叩っ斬ってやるよ、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)で。
ひどいですよ、ホントにひどい。こんなもんを「小説」と称して世間に流通させるのは、いかがなものかと思う今日この頃。田舎のお父さん、お達者ですか? ……『刀』について考えることを拒否し、逃避に走りたがってる我が灰色の脳細胞なんでございます。
一九五九年に東京の郊外で生まれた、あまり頭がいいともセンスがよいとも思われぬ少年が、〈十代、詩人になる。或いは夭折。/二十代、レコードデビュー、武道館でライブ。或いは病死。/三十代、小説を書き芥川賞を取る。或いは自死。/四十代、映画を撮りカンヌ映画祭に出品。或いは長生き。〉なんつーこっ恥ずかしい将来設計図を描き、実現させていくおナルな様を、厚顔無恥にして稚拙劣悪としかいいようのない駄文で書き連ねた、これは世紀の鼻糞本なんであります。
二度の離婚と三度の結婚を経て、女優ナナとパリに移り住むといった芸能ネタめいたエピソードに、多少の関心が集まるかもしれませんが、ここでも辻の自己愛は炸裂。女優の千恵子(南果歩)の時も、タレントのナナ(中山美穂)の時も、最初に惚れるのは向こう。パリの空港ですれ違い、雑誌の対談企画でナナと再会を果たした〈私〉(たしか、現実の辻仁成はこの時「やっと会えたね」とか何とかぶっこいたはず)は、その後、彼女と食事をし、明け方タクシーで送っていくことになるんだけれど、ナナはその車内でいきなり、〈私〉の手を握り、〈いつか連れていって下さい、と意味ありげな一言を残〉すのです。はいはい、大変おモテになるんですねえ、仁成さんは。
全編これ「オレ様ってすげぇスペシャルな存在じゃん!」的言説に貫かれたこの破廉恥物語には、〈私〉がその時々に書いた詩やら、〈私〉の分身にして刀の精のヒカルによる、哀れなほど幼稚な作文が挿入されており、もしかするとそういう作為を指して辻はメタフィクショナルな仕掛けだと信じ込んでいるやもしれず、そう思えばバカにするのを通り越して同情を禁じ得ないわたくしなんでございます。誰だよっ、こんなヤツに芥川賞やったのは。責任取って切腹してほしいんであります、当時の選考委員には、てめえらん中に棲み着いてる刀でもって。
【この書評が収録されている書籍】
ひどいですよ、ホントにひどい。こんなもんを「小説」と称して世間に流通させるのは、いかがなものかと思う今日この頃。田舎のお父さん、お達者ですか? ……『刀』について考えることを拒否し、逃避に走りたがってる我が灰色の脳細胞なんでございます。
一九五九年に東京の郊外で生まれた、あまり頭がいいともセンスがよいとも思われぬ少年が、〈十代、詩人になる。或いは夭折。/二十代、レコードデビュー、武道館でライブ。或いは病死。/三十代、小説を書き芥川賞を取る。或いは自死。/四十代、映画を撮りカンヌ映画祭に出品。或いは長生き。〉なんつーこっ恥ずかしい将来設計図を描き、実現させていくおナルな様を、厚顔無恥にして稚拙劣悪としかいいようのない駄文で書き連ねた、これは世紀の鼻糞本なんであります。
二度の離婚と三度の結婚を経て、女優ナナとパリに移り住むといった芸能ネタめいたエピソードに、多少の関心が集まるかもしれませんが、ここでも辻の自己愛は炸裂。女優の千恵子(南果歩)の時も、タレントのナナ(中山美穂)の時も、最初に惚れるのは向こう。パリの空港ですれ違い、雑誌の対談企画でナナと再会を果たした〈私〉(たしか、現実の辻仁成はこの時「やっと会えたね」とか何とかぶっこいたはず)は、その後、彼女と食事をし、明け方タクシーで送っていくことになるんだけれど、ナナはその車内でいきなり、〈私〉の手を握り、〈いつか連れていって下さい、と意味ありげな一言を残〉すのです。はいはい、大変おモテになるんですねえ、仁成さんは。
全編これ「オレ様ってすげぇスペシャルな存在じゃん!」的言説に貫かれたこの破廉恥物語には、〈私〉がその時々に書いた詩やら、〈私〉の分身にして刀の精のヒカルによる、哀れなほど幼稚な作文が挿入されており、もしかするとそういう作為を指して辻はメタフィクショナルな仕掛けだと信じ込んでいるやもしれず、そう思えばバカにするのを通り越して同情を禁じ得ないわたくしなんでございます。誰だよっ、こんなヤツに芥川賞やったのは。責任取って切腹してほしいんであります、当時の選考委員には、てめえらん中に棲み着いてる刀でもって。
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