書評
『待望の短篇は忘却の彼方に』(河出書房新社)
期待通り、活字の即興演奏
私個人は、中原昌也の小説をすばらしいと思っている。この新作の短篇集も期待に違わぬ出来だ。だが、私がすばらしいと書くと、反対に、あんなの小説ではない、と否定の側に回る人々もいる。そして、すばらしいと駄目だの意見のせめぎあいの中に中原の小説は巻き込まれることになる。それは不幸なことだと思う。彼の小説について何かを語ることが、否応(いやおう)なく構築してしまう意見の対立……。そろそろそんな低劣な意見のぶつかり合いはやめたい。だからこの欄で中原の小説を取り上げることを私は躊躇(ちゅうちょ)した。彼の小説を絶賛することが彼のカルト化にしか繋(つな)がっていない気がして。
だが、賛否の意見の激しさが小説の卓越を示してもいるのだ。誰もが納得し、誰もが涙する小説ばかりが売れる時代に、凄いと思う人々と、買って損したと判断する人間が同時に発生する小説なんて、やっぱりすばらしいぞ。
もちろん方法的な新しさもある。そもそも物語らしい物語がないことは、小説の基本的な枠組を最初から放棄しているわけで、活字の即興演奏と呼んでみたい。とにかく、一読を。
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