書評

『唐突ながら: ウディ・アレン自伝』(河出書房新社)

  • 2026/04/15
唐突ながら: ウディ・アレン自伝 / ウディ・アレン
唐突ながら: ウディ・アレン自伝
  • 著者:ウディ・アレン
  • 翻訳:金原 瑞人,中西 史子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2022-11-29
  • ISBN-10:4309208703
  • ISBN-13:978-4309208701
内容紹介:
映画監督、脚本家、俳優として『アニー・ホール』『ハンナとその姉妹』他数々の名作を作りつづけたウディ・アレン。少年時代から映画の舞台裏、世紀の醜聞事件までを饒舌に語る待望の自伝。

栄光の人生とその晩年

ニューヨーク州のブルックリンで生まれた皮肉ばかり口にする生意気な少年が、マンハッタンの中心、しかもセントラルパークの東に邸宅を構える。その可能性は、何千万分の一より多くはない。

ジャズと手品好きの冴(さ)えない少年は、高校生時代からスタンダップコメディアンにギャグを提供する仕事を始め、NY大学を中退するが自ら舞台に立ち、やがて脚本・監督・主演を兼ねるスターへと順調に進んでいく。本書は、ダイアン・キートンはじめ、現在の妻、スン・イーら素晴らしい女性たちとのロマンティックな思い出で埋め尽くされる。

その名は、全世界でカリスマとして語られる。日本でも同様で、多くの映画に「ウディ・アレンの」と冠がつく。異例のことで、熱狂的なファンが確実にいる証拠だ。

その理由は、何より自虐的なギャグのキレ味にある。映画だけではない。本書でも、ニューヨーカーならば、一頁(ページ)に十回は爆笑するに違いない。私でも二回は笑える。たとえば第十四章、演劇の世界ではアレンを上回るヒットメーカーのニール・サイモンから「お褒めの言葉が書かれた素敵(すてき)な手紙」をもらったが、アレンは額面通りには、受け取らない。「だけど、親切な言葉に感動したふりをして、お礼状を送っておいたよ」。こんな調子だ。

また、第十五章では、「ばればれだったかもしれないが、ぼくはずっとテネシー・ウィリアムズになりたかったんだ」と、偉大な劇作家への憧れを隠さない。映画監督のイングマール・ベルイマンを愛してやまないと書く。なるほど、笑いに頼らない『アニー・ホール』『インテリア』『マンハッタン』を撮った理由がわかる。彼らと肩を並べたい。根深いコンプレックスが彼を突き動かしていた。

本書の白眉は、晩年を揺るがす養女に対する性的虐待疑惑への反論だろう。事件の経緯は、訳者によるあとがきに詳しい。邦訳で二段組み四〇一頁の大部の本が、身の潔白を立証するための弁明書とも読める。順調過ぎる人生には、こんな陥穽(かんせい)が用意されていたのか。痛ましく思う。
唐突ながら: ウディ・アレン自伝 / ウディ・アレン
唐突ながら: ウディ・アレン自伝
  • 著者:ウディ・アレン
  • 翻訳:金原 瑞人,中西 史子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2022-11-29
  • ISBN-10:4309208703
  • ISBN-13:978-4309208701
内容紹介:
映画監督、脚本家、俳優として『アニー・ホール』『ハンナとその姉妹』他数々の名作を作りつづけたウディ・アレン。少年時代から映画の舞台裏、世紀の醜聞事件までを饒舌に語る待望の自伝。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 :2023年1月28日/中日新聞:2023年1月29日

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