書評
『ディスコ探偵水曜日』(新潮社)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
このトンデモ宇宙論をキックボードに下巻で丁寧に解かれ描かれていくのは、しかし、頭でっかちなだけの物語じゃありません。ディスコ自身の”本当の気持ち”という、すごくナイーブな謎を中心においているのが、舞城の舞城たるゆえんなのです。
こうしたメッセージが繰り返し変奏されるこの長い物語の中で、知力と妄想力の限りを尽くした凄まじい量のミステリーとSFのギミックを投入するこの長い長い物語の中で、舞城王太郎は自分の本当の気持ちを見失わないこと、自分を閉じないこと、自分自身で考えるのをやめてはいけないこと、悪そのものを乗り越えるにはそれを上回る強い意志と感情を持たなければならないことを、読者に真摯に呼びかけている、わたしにはそう思えてなりません。
時空を自在に行き来する大冒険の果てで、ディスコは梢異変の原因である悪の存在とついに相まみえ、世界の子供たちを守るために超ド級スケールの対抗策に挑みます。その試みのバカバカしさといったら……。そのバカバカしさがわたしの胸を打つ音の大きさといったら……。ああ、なんてナイーブな! トンデモミステリーやトンデモSFとして提示される伏線を律儀に拾いながら、しかし、その知力の矢が射抜こうとしているのは「愛」。そこがいい。そこが、好き。冗長すぎると思う人もいるかもしれませんが、愛を語るにはこれほどの長さを必要とするのです、この舞城的世界では。
関連書評:豊崎由美【書評】舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』前篇
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
後篇 舞城的世界の知力の矢が射抜こうとしているのは愛。そこが、いい
なわけで前回、上巻は新本格(トンデモ)ミステリーだった『ディスコ探偵水曜日』が、下巻に入るとハード(トンデモ)SFになっていくところまで紹介したんですが、読者の皆さまにおかれましては、物語が佳境に入っていくにつれ、北京原人なみのわたくしの脳にどんどんもやがかかっていくことをご了解あそばせ。だって、いきなり「古典的定常宇宙論」「膨張宇宙論」「振動宇宙論」、今あるこの三つの宇宙論を融合させた「折り返し宇宙論」なんてのが提唱されるんですもの。「折り返し時点」に向けて歳をとっている我々と、「折り返し時点」に向けて若返っている我々がいるっていう、平行宇宙論の珍種のような理論を展開。その上、同じDNAを持って生まれてくる宇宙があるんじゃないかという「双子宇宙論」なんて仮説まで飛び出して、頭のいい妄想はとどまることを知りません。このトンデモ宇宙論をキックボードに下巻で丁寧に解かれ描かれていくのは、しかし、頭でっかちなだけの物語じゃありません。ディスコ自身の”本当の気持ち”という、すごくナイーブな謎を中心においているのが、舞城の舞城たるゆえんなのです。
〈この世の出来事は全部運命と意志の相互作用で生まれる〉〈世界は人の信じるように在り、その世界観は絶えず他人によって影響され、揺らいでいる〉〈人の意識が世界を作る〉〈人間ひとりひとりが密室化している〉
こうしたメッセージが繰り返し変奏されるこの長い物語の中で、知力と妄想力の限りを尽くした凄まじい量のミステリーとSFのギミックを投入するこの長い長い物語の中で、舞城王太郎は自分の本当の気持ちを見失わないこと、自分を閉じないこと、自分自身で考えるのをやめてはいけないこと、悪そのものを乗り越えるにはそれを上回る強い意志と感情を持たなければならないことを、読者に真摯に呼びかけている、わたしにはそう思えてなりません。
時空を自在に行き来する大冒険の果てで、ディスコは梢異変の原因である悪の存在とついに相まみえ、世界の子供たちを守るために超ド級スケールの対抗策に挑みます。その試みのバカバカしさといったら……。そのバカバカしさがわたしの胸を打つ音の大きさといったら……。ああ、なんてナイーブな! トンデモミステリーやトンデモSFとして提示される伏線を律儀に拾いながら、しかし、その知力の矢が射抜こうとしているのは「愛」。そこがいい。そこが、好き。冗長すぎると思う人もいるかもしれませんが、愛を語るにはこれほどの長さを必要とするのです、この舞城的世界では。
関連書評:豊崎由美【書評】舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』前篇
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