書評
『聖地Cs』(新潮社)
牛と人、被災地での交感描く
東京からボランティアにやってきた若い女性が主人公。彼女は、福島第1原発から14キロのところにある牧場「希望の砦(とりで)」で牛たちの世話をする。その3日間を描いた小説だ。居住制限区域内の牧場には、360頭の牛がいる……。東日本大震災の後、少なくない量の「震災後文学」が書かれてきた。小説家たちは想像力を駆使してきたと思う。
木村には、他の小説家たちと明らかに違うところがある。動物との交感の度合いが格段に高いという点だ。
牛の眼、排泄(はいせつ)物、汚泥。主人公はセシウムにまみれているはずの牧場の中で、ひたすら牛の世話に没頭する。
牧場に集まる人間たちは、それぞれ主張を抱えている。声高に反原発を唱える者、黙って他県から通ってくる者、居住制限区域の動物に触れに来るアイドル……。主人公も、夫との確執を抱えている。
だが、この小説を圧倒的なものにしているのは、牛の鳴き声と、人間の発する唸(うな)り声とが同一化するところだ。小説の終盤、牛舎前の泥の沼にはまり込んだ主人公が発する声の存在感に激しく揺さぶられた。
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